DESCARTES' DREAM

デカルトの夢』 アスキー出版局
フィリップ・J・デービス、ルーベン・ヘルシェ(著) 椋田直子(訳)

応用数学(特にコンピュータ関係)をめぐるエッセイ集。ただし出版されたのが1986 年なので、コンピュータ技術に関しては一昔前と思われる内容が多い(Ada の行く末が案じられているよ!)。それだけコンピュータの分野が進歩している証拠でもあろうが、今だったら、グリッドコンピューティングとインターネットに対する言及がでてくるかな。Mathematica と カオスは少し古びているので微妙か。
なので、個人的にはコンピュータ関係以外の数学と外部との問題を抉り出している部分を楽しんだ。数学の専門書(または物理でもよい)を読んだら、大抵の人間は経験がある「それは自明」だとか「簡単な計算」との記述が全然自明じゃなかったり簡単じゃなかったりするのを「数学における雄弁術」と言い切ってしまっているし、後半部分にある“時間”と科学の関係に対する簡単だが明快な関係、非ユークリッド幾何と相対主義の関わりでの「公理は遊び道具」を巡る状況説明、誰もが考えるプラトン主義的数学、最期の意味の喪失など、それなりに楽しめる本ではなかろうか。

二人による前著『数学的経験』は内容的には面白かったが、訳が完全に直訳で読むのがしんどかった覚えがある。今回はこなれていてすらすら読めた。またF.J.デービスは『ケンブリッジの哲学する猫』という猫萌え小説も書いていて、こちらは作者が作者なので数学をメイントリックに使ってやる小説…と思って読んだら、肩透かしを食らう。経歴を見ても思うが多芸な人である。