Landau

『物理学者ランダウ スターリン体制への叛逆』 みすず書房
佐々木力・山本義隆・桑野 隆(編訳)

物理を勉強した人間が必ず世話になるランダウ・リフシッツの理論物理学教程、そして様々な研究に出てくるランダウの名前。彼が1938年に逮捕され、一年間の牢獄生活を送り、その語もKGB の監視下に置かれていたことを、僕はこの本で始めて知った。アンリ・リワノワの『ランダウの素顔』の前半部では、自由闊達なランダウの物理思想と学派に注目するともにその人となりが述べられていたが(後半はヘリウムの研究の簡単なまとめ)、このような事実は全く書かれていなかったと思う。

従って、その政治的なイデオロギー、そして個人主義を貫いた(愛人がたくさんいたそうであるw)彼を発見する非常に重要な本である。一章は佐々木氏によるランダウの思想と物理の総論であり、続いて物理思想とその業績の側面での重要な証言の訳、最終章は政治的な部分の史料の訳となっている。
苦言を呈させてもらうなら、総論で佐々木氏の思想が前面に出ており、それに追随するような形で、ランダウの業績を扱っているような印象がある。透明感がない。僕はノンポリなので、そのような記述に過剰に拒否反応がでてしまっているかもしれない。
あとなぜか、全体を通してみるとカシミールの証言の部分だけ、非常に読みにくくなっていると思う。多分原文の反映なのかと思うが。
山本義隆氏のあとがきでの日本の科学と政治のかかわりについては、首肯するしかないのが、痛い。