オメガ

大学に入る前に数学基礎論の講義を一週間ほど受けたことがある。公理論的集合論からゲーデル不完全性定理までを教えるもので、当然、僕の様な頭の出来では理解するなどということは出来ず、ただ眼前で繰り広げられる数学の豊穣さに魅入られただけである。ときどき睡魔と闘ったりもしたが。

それで、不完全性定理を理解することが出来れば、自分の世界認識が変わるであろうという妄念に取り付かれて、受験の志望学科を数学にするなどと暴挙にでた。若気の至り以外のなにものでもない。もしくは『認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを』である。

その後、大学に入学し、実際の学科分属時には数学から物理にあっさりと鞍替えしてしまうわけだが、数学基礎論に対する興味はずっとある。どうしようもない人間は僕以外にもいるもので、親しくしている友人のなかにも基礎論を愛する人間がおり(実は前述した講義にこの友人も参加していたわけ)、新入生とのゼミでは基礎論のテキストを読むのがある種通例になっていたとおもう。その友人は現在でも基礎論を専攻して、格闘している。

ということで、日経サイエンス6月号に

G. チャイティンゲーデルを超えて オメガ数が示す数学の限界』

が載ったので有無を言わさず買った。『セクシーな数学』では、オメガ数に関しては注釈程度しか言及しておらず、このようなわかりやすいショート記事が欲しかったのだ。所詮、数学者でもない手遊び程度の興味であるので、論文そのものは手が出るわけでもなく、ちょうど飢えを満たしてくれる解説である。読んでいて興奮する。公理にまつわる部分で確率論が入り込む、先の友人に概略を聞いていたが、やはり面白い。このような成果は、もっと周りに喧伝するべき話だと僕は思う。

名古屋に帰っていたので、名古屋在住の基礎論を昔専攻していた現在医学部生にこの記事を見せたら、「俺も買う」と即答していた。現基礎論研究者の友人とも語りたかったのだが、予定が合わずに、会うことが出来なかったのは残念である。


ところで、日経サイエンスを久しぶりに買ったのだが、1400円もするんだねぇ。院生のときは、図書館でロハで読めたのだが…。

『知の限界』、『数学の限界』にも手をださねばならぬか。