極西文学論

『極西文学論』 晶文社
仲俣暁生(著)

村上春樹を主軸に舞城王太郎吉田修一阿部和重保坂和志星野智幸を論じた文学論。僕は村上・舞城・吉田・阿部・星野はそれなりに読んでいるが、保坂は一作として読んでいない。
読んでいた最初の方で、村上春樹を「恐怖」を取り扱った作家として規定するのは良いにしても、純文学の便宜上定義とその周辺の話は「?」になって先行きが心配になってしまった。
「恐怖」と「視点」で小説を論じあげており、村上春樹を恐怖の周辺で逡巡している作家に対して、舞城王太郎などを直接たどり着いている作家と看做すのには非常に説得力があった。後半では「視点」のキーワードで吉田健一ティルマンス、そしてヴィム・ヴェンダースすら関連して論じてみせるのは、(少々こじつけくさいところもあるが)非常に読んでいて楽しい。
ただ、「西」というのが、何度もでてくるが、舞城のデビュー作にしか論拠が見られないと思う。といっても一番最後で、この位置関係は無化されてしまっているので構わないといえば構わないが、一応、全体の名称になっているのだから…。また、個々人の作家性については全く踏み込まれていない。つまり先にコンセプトがあって、それに作家の作品を割り振る形になっているので、その部分には無理があると思う。
いくつか読みたくなった本がでてきたので、その意味で僕にとって非常に有用な読書でした。